ワンポイントアドバイス
ワンポイントアドバイスTOPに戻る

ガイドラインって何だろう?

最近、ガイドラインという言葉をよく耳にしませんか。今までは担当する医師の経験から独自の判断で医療がなされていることが多く、ひどければ何の科学的根拠もない治療がなされているケースもみられていました。  

私が医師になった20年前には診療を進めていくにはPOSという患者の訴え、診察した所見や検査結果などの他覚的所見、それに対して何を考えるか、診断治療計画は、というような進行で進めていく方式の教育を受けてきました。ただ、その治療の選択基準や治療方法はかなり医療機関によって異なっていたことが多かったのです。その結果、治療成績に大きな開きができてきたことが問題となっています。誰だって癌になったら最も治療成績の良い施設で診てもらいたいだろうし、手術方法もかなり違ったら、侵襲度の少ない治療方法を選択する施設にかかりたいでしょう。

たとえば乳癌になったとしましょう。20年前では、比較的早期の癌でも乳腺とリンパ節と胸の筋肉を摘出する根治手術が当たり前でした。その後、胸の筋肉を摘出しなくても良い根治術に変わり、今では乳腺の一部とリンパ節のみの摘出で、術後に放射線をあてる根治手術に変化しています。これらは学会で集積した治療成績から差が無いことから多くの施設で採用することになりました。ただこの後者の方法は施設によって採用されないこともあり、乳腺を全部摘出してしまうこともあります。もし乳癌検診で引っかかって手術となったら、乳腺が残せる施設に紹介されるか、乳腺がなくなってしまう施設に紹介されるかで患者さんは女性としてはいかに大きな問題になるかお解かりでしょう。ガイドラインとはこういった治療のばらつきをなくし、標準化しようといった方向付けと考えてください。  

最近、我々医師にとって「科学的根拠に基づいた医療(EBM)」という考えが導入されました。簡単に言うと、それは医師からもらう薬がどれほど患者さんの経済対効果があるのか、行う検査がどれほど患者さんに必要な診断の根拠になりうるのか、といったことです。たとえば薬をもらうとなぜか多くはお寿司についてくる生姜のように胃薬を出されませんか?その医師は患者さんが薬をもらうことで胃を悪くするといけないと考え胃薬を処方しますが、これは科学的根拠の無い治療になります。私は鎮痛解熱剤を処方するときでも余程のことが無い限り、胃薬は処方しませんし、問題はほとんどありません。たとえば肺炎である病院に入院した場合に、胃カメラから頭のMRIなどを検査されることは良くあります。入院中に他に病変が無いか検索することが必要と担当医は考えたのでしょう。患者さんもこの際だからといって検査を受けるでしょう。時にはそれで胃癌が見つかるときもあります。しかし、これもEBMからは離れていることになります。病院を移るたびにCTやMRIなどを受け続けることもしばしばです。これらの過剰な処方や検査が医療費増大に大きな影響を与えていることを知る必要があります。

  ここでガイドラインの話に戻りましょう。日本でも独自のガイドラインは各病気に対してあります。学会もガイドラインを出すことを今では基本としています。

さらにガイドラインに基づき、医療施設で入院から退院まで一つの診療の流れとしてできたのがクリティカルパスと呼ばれるものです。最近では多くの医療機関で取り入れられてきております。これによって患者さんは入院中の診療予定がはっきりするので安心です。

医師の技術に多少の差はあるでしょうが、ガイドラインに乗っといていればそれほど受ける医療の内容に差は無いでしょう。そのためのものですから。あとは患者さんがその医師からどう説明を受け、理解し、医療を受けるかです。しかし、いまだにEBMとはかけ離れた治療がなされていることはたくさんあります。勝手な判断や治療がなされ、良くなればそれでいいじゃないかとのことで患者さんが多く集まるケースがあります。少しでも疑問を感じたら担当医に聞かれるか、担当医が答えようとしなければ第3者の医師に相談されるか、上記のガイドラインで勉強されるのも良いでしょう。

最後に理解しておいてほしいのは、EBM が必ずしもすべてではないと言うことです。患者さんにはその社会的環境によって EBM では無理な面が生じてきます。その反省から最近では NBM ( Narrative Based Medicine )患者さんの体験(経緯や生活?)に基づいた医療とでも訳すのでしょうか、これも重要視する医療も取り入れられてきております。家族がいる患者と家族がいない患者、患者が歩んできた生活環境なども踏まえた上での医療が必要なことも決して少なくありません。ガイドラインというものは標準的な治療であり、それをベースに診療を行っても、患者個々によっては軌道修正する必要があります。患者という生きたものを扱うわけですから、1+1が人によっては5もあれば、−2の時もあるのです。

私は医療をやっていく上でこれが楽しい、やりがいのあることだと考えています。